拮抗バランスと姿勢改善維持方法 第3回|「拮抗伸張」の手法

様々な原因から弛みきった現代人の身体を改善させて、より強い運動能力を持たせるには、身体全体に張りを持たせる事が重要と考えています。伸展運動ではなく「拮抗伸張」とは、体の中を張り巡る対立した腱や筋膜リレーションを拮抗させながら張り合う事で、継続できる理想のポジションを作り上げる手法です

お客様に対しては基本的な拮抗伸張を指導するだけで、身体の姿勢保持反応が高まると共に姿勢が安定してきます。更に高い弛緩や伸展を施術者が外側から触らずに同様の伸張や弛緩を行う事で、体幹の緊張や求める場所に弛緩を作る事も容易にできます

拮抗伸張とは、自身で行える自家治療でもあり、治療にパー(伸張)とグー(弛緩)を活用する事で、お客様の身体に張りを作る事も緊張を和らげる事も可能です。

 

拮抗伸張トレーニング(施術者向け)

拮抗伸張のベースとなる張り合いを作るトレーニングです。手と手を10センチ程度開けて手のひらを向い合せます。力を抜いた手の構えから、対立した手の指先まで、1本ずつ徐々に伸ばし合う動きから慣れていきます。両手の指が全て張れた段階で徐々に力を弛めます。

その手の構えが基本となるのは反り返りが無く、弛緩も無い、いつでも反応の出来る動物的な理想の手の構えだからです。

その手の構えから常に簡単に張り動作に入れるようにトレーニングをします。慣れてきた段階で手と手の間にある「気」を感じてみてください。徐々に「気」を流した側と受け止める側、張り合った感覚などが感じられる様になります。

手に温もりや壁感覚・吸収感覚などを感じてくれば理想です。徐々に手と手の間隔を拡げても感じられる様にベースの伸張感覚のレベルを高めます。

片手だけで行うと「気」を送る気功の要領ですが、目的により体の様々な動きに運動の活性や制約を作る事が出来ます。更に対立と拮抗を同時に行う事ができるこの手法は調整した姿勢を継続的に維持させる事に有効な手法です。

 

拮抗伸張手法

1 基本的な拮抗伸張は、立位で骨盤の両脇で指先を前に向けて、手のひらが足元を向く様にセットして行います。仕上がった姿勢をそのまま維持継続させる為には、両手が拮抗した状態で同時に伸張を感じながら行います。体の腱・筋膜を拮抗状態で伸張させて安定させる事で、理想の姿勢を築きます。手のひら側では、体の中での止める・押す・掴む伸張運動をコントロールする事が出来ます。逆に手の甲側は、進める・弾む・弛む 弛緩運動をコントロールする事が出来ます。 


2 姿勢変化の為の骨盤の回旋・位置の誘導は、両手の甲の向きや拮抗関係を崩すと簡単に移動を始める事が理解できるようになると、姿勢改善や運動を行う時に手の張りと弛緩を使いこなす事により、足部の初動運動から頭部や骨盤が誘導され身体全体の動きになる事を確認できます。

例 片手グーで片手パーの場合、グー側が弛緩している為に、頭部も体もそのグー側に移動又は回旋し易くなります。同様にどちらかの手の甲の向きを変えると、そのの方向に頭部や体は向き易くなります。


3 どの様な姿勢でも、綱引きの長さが違うだけで拮抗状態にあります

単純に体全体を弛めた手法や前後左右同等に緩めた手法が全盛ですので、また元の姿勢に戻るのは当たり前です。

ストレッチなどの動作は十分に腱を伸ばす動きですが、同時に対立した腱を弛緩させていると考えなくてはなりません。結局、伸展運動では、身体の張りは作れず、関節や腱を緩める運動となっていると捉えている方が良いでしょう。

姿勢を整える為には、前後左右の拮抗バランスの崩れた綱の長さを調整する事で姿勢を築き、その上で張り合った綱引きをさせる事が新たな拮抗関係での次の姿勢を作る事になります


4 拮抗伸張を理解した段階で、お客様の姿勢改善運動指導に活用します。

a 身体の歪みや回旋修正は、操体法をベースにした片寄ったストレッチ運動が有効です。

b 回旋、側弯、前後弯の修正が有る程度できた段階で、B-TR又は楽座衛門上で拮抗伸張を行います。

c 上体を観察し、回旋や側弯の症状が残っている場合には、両手のひらの向きを片手ずつ回旋又は手の位置を変化させる事で調整します。

d 調整できた手の位置や向きで、再度、「拮抗伸張」を行います。

e 腱や筋膜の張り合った身体は、身体のどの部位を抑えても強い押し返しを感じる身体の張りが出来上がります。


5 理想の張り合った身体を継続的に維持させる為には、個人で行う伸張運動だけでなく、定期的な姿勢確認と体の拮抗バランスを調整する必要が有ります