第9回 この現実を理解できますか?

どの医学書にも、足裏の踵骨、拇趾球、小趾球の三点を支持することで、人間は立つことができたと伝えています。
また、その間にある足弓(アーチ)と呼ばれている足部の関節群があります。
このアーチは靭帯(腱)により、アーチの形状を保ちながら必要に応じて上下に可動することで、止まっているときのバランス保持はもとより、運動時の骨盤の移動や回旋といった動きを始動しています。
また、その足裏からの腱運動を行うことで下肢の筋肉が活性し、心肺機能の補助となる静脈、リンパ、水分の循環促進を行っています。

足裏のアーチの構造とは、一般的に「門」または「橋」のことを指しています。
二つの支点が土台となり、中に空間があることを意味しています。
でもこれでは正確ではなく、やはり「弓」だということを理解していただくと、何が大切であるかを理解できると思います。
「弓」には「弦」があり、「弦」があるからこそ「弓」が弓としての役割を果たしています。
「門」「橋」のような足関節群のアーチ形状だけではなく、「弓」であり、「弦」である靭帯(腱)が張る構造で作り上げられるアーチだからこそ、役割を果たしているわけです。

さらに、「門」「橋」の空間を埋めてしまう構造などは足の機能はもとより、その呼び方も不適切としか言えません。
このように「弦」の動きを押さえてしまう構造は、最初は張りを持ちますが、慢性的な筋弛緩を引き起こし、姿勢保持はもちろん、骨盤移動も足部から行えず、無理な大腿骨の回旋や股関節運動となります。
当然、下肢、膝関節、骨盤に至る運動障害が起こり、変形性膝関節症や腰痛症、血行不良からの冷え症やむくみ、心疾患まで影響してしまいます。

履物に求められた機能は、人間を守ること。
さらに、用途に応じた道具として人間の能力を高めることではないでしょうか。
本来の基本的な機能として、靴に求められていることは、三点支持力を高めて足部の靭帯を活性させることで、姿勢保持能力や運動能力を上げていく機能でなければなりません。
しかし、残念ながら世界中の多くの履物やインソールは、アーチの間が盛り上がり、青竹踏みに近い状況となっています。
これからも毎日、朝から晩まで青竹踏みのように、青竹の上に乗った生活を続けられますか。

現状の履物は丈夫で安価な靴を作るために、靴に構造上の硬さができました。
そして、フィット感を求めて足裏のアーチ中心部を持ち上げ、足と靴との横ずれが少なく、踵が上がりにくい構造にする目的で、靴の内底の幅を足より狭くし、足部に対しての巻き込みや上からの押さえを強くする構造となりました。

さらに、前に向かっての靴のローリング歩行が行いやすいように、トウ(つま先部分)を上げた構造など、半世紀の間に履物には誤った構造からのさまざまな改良や変化が起こりました。
実は、全てが靴の考え方の過ちから始まった補正の構造に過ぎません。
本来の人間の姿勢保持の理論を無視した最悪な構造なのです。

足部の靭帯に適正な張りやアーチの運動ができない構造は、足首の運動を極端に妨げてしまいます。
特に足裏の凸部によって張りすぎた構造は、足首関節の前側への屈曲を制限してしまい、アキレス腱断裂の危険性を秘めています。
さらに踏み蹴り運動においても十分な足首関節の伸展が行えず、前側への重心移動に抵抗が生まれます。
継続して使用すると、身体の体幹に関わる靭帯の弛緩から骨盤後傾や膝が前に出た姿勢を引き起こしやすくなります。

世界中が、このまま誤った理論や機能に気付かずに、数十年、数百年暮らすとしたら、普通に立っていることさえできない子供たちや腰痛・ひざ痛は当たり前となり、循環機能の劣化から心疾患や脳梗塞などの疾病がさらに増えることでしょう。
近未来には、若い世代から二足歩行ができなくなり、杖が常識となった三つ足の世界、立っていることが難しくなり這い回る四つ足の世界。
進化論どころではなく、流行によって引き起こされる退化が始まってしまうかもしれません。

ファッションや履物の流行という言葉に流されて、業界のビジネス戦略に世界中が乗せられています。
その時その時で素晴らしいと感じさせる広告宣伝やマーケット戦略によって、その商品に憧れて購入したユーザーは限りなく多いと思います。
でもそのほとんどの商品が、本来の人間の姿勢保持能力や野性的な治癒能力を失わせている現実があることは、否定できないことと考えています。
現代病や生活習慣病にもかかわるこの履物の過ちに対して、宣戦布告です!