第11回 靴の話②
靴はもともと、人間の活動範囲を広げ、体を守るために考えられました。
しかし、その靴が人間の身体を蝕み、足病はもとより、現代病や生活習慣病に起因している場合があることは、あまり知られていません。
さらに、姿勢保持力を減退させることが体の歪みをつくる要因となっていることもあります。
人間は動物であることはもちろんですが、いまだに四足当時の名残を、しっぽや体毛の生え方などに残しています。
四足から二足の立位になったとはいえ、地球の生い立ちから考えれば、ようやく立ち上がれた動物のレベルであり、進化の過程の一部に過ぎません。
そんなレベルの人間なのに、シューズビジネス界やファッション界で作られた誤った構造の靴により、人間本来の機能や能力を低下させてしまい、さまざまな足病や体のストレスを引き起こしている現実があります。
その現実に対応するために、靴業界の常識を覆す理論の啓蒙や、人間の機能の回復はもとより、質の高い姿勢や生活を行える環境づくりが必要と考えております。
骨格にはいくつかのベースの形がありますが、足部の三点支持(踵・拇趾球・小趾球)に関わる足底腱(姿勢保持筋)の反応により、骨盤の位置や方向が定まり、体幹や体軸といった姿勢を確保するためのラインに大きく影響を及ぼします。
靴の形状による指や甲への圧迫、内底部分の凸部形状による足底腱の弛緩、靴の低反発性を求めたことによる靴の不安定感。
このさまざまな要因が、体の姿勢保持筋の働きを低下させてしまい、スポーツ選手の障害や女性の歩行障害、年配者の筋肉の衰えからくる身体の歪みを発生させています。
その靴が起因している足病には、外反母趾や内反小趾、浮指やハンマートウ、魚の目、タコ、偏平足など、挙げればきりがないほど多くの足病があります。
そして、そのほとんどが骨格からくるもので、通常の体型や歩行などが主要素となっているところに、靴が引き起こす弛緩や圧迫などが加わり、その部位に発生していると思われます。
靴の弊害がもたらす、足部や足首関節が十分に使えない環境は、「第二の心臓」と呼ばれている下肢の循環促進機能の働きも阻害してしまい、むくみや冷え性はもちろんのこと、心肺機能への負担や血行障害などの疾病にも発展してしまうことも考えられます。
本来の足部の三点支持機能が十分に発揮できる状態にあると、立ち姿勢は「気をつけ」とまではいかないまでも、鉛直な姿勢で立っていることが楽になり、逆に「休め」の姿勢となることのほうが、重力による負荷を感じるためストレスを感じるようになります。
年齢とともに筋力が衰えても、足部の機能が活性している限り、身体は鉛直方向への姿勢を楽と感じ、その鉛直な体軸のある姿勢に向かい、無意識に少ない姿勢保持筋で維持するようになります。
誤った構造の靴による体の弛緩は、体の揺れや姿勢保持を維持するために、運動筋を使い体の姿勢保持を行わなくてはなりません。
体のゆるみが歪みを引き起こし、歪みが慢性的な運動筋の疲労を招きます。
それが腰痛や肩こり、慢性疲労の原因でもあります。
筋肉による姿勢保持が困難になってくると、各関節への負担が増大し、変形性膝関節症やヘルニア、ぎっくり腰などの疾病につながることは明白です。
スポーツによる怪我を未然に防ぐことも、女性の歩き方やスタイルを改善することも、杖を突かずにいつまでも歩き続けられる夢のある将来に向かうことも、すべての可能性は足元から始まっていると考えられます。
何世代も前から誤った構造の靴により衰えてしまった足部の三点支持による機能を回復させ、きれいな姿勢で、何世代も先まで一族が姿勢管理をされていくことを望んでいます。
ファッションも必要かもしれません。
でも、人間本来の機能を損ねるファッションやシューズビジネスの業界に踊らされて、不健康で歪んだ姿勢になっていることを、改めて考えてほしいと願っています。
憧れからハイヒールを履いて、足首関節からグラグラ歩いている姿は、とてもきれいとかかわいいという問題ではなく、その一族の考え方に対して、哀れさを感じてしまいます。


